海と牡蠣と人々と
夏、広島県倉橋町(倉橋島)───その美しい海のどこかで、卵からかえった牡蠣の種(幼生)が海中を漂う。放っておけば偶然出逢った何かに付着してしまうだろう。情報はすぐに飛び交い、海上へ急いだ漁師たちが一斉に筏から貝殻(ホタテ貝)の束を吊しはじめる。そして───それは拡大鏡や顕微鏡でたった1枚を覗けばわかる。その1枚に漂着がなければ、すべてに可能性はない。毎年6月から8月にかけて、そんな不思議な「採苗」がつづく。
採苗できた牡蠣の種は、貝殻の束のまま浜辺の「抑制棚」へ。成長の抑制が目的だが、漁師は「牡蠣の子を鍛える」と表現する。自然界では何処に漂着するかは運次第。そのため水なしで1週間ほども生きる強さを牡蠣は秘めている。島の浜辺は潮の干満差が約4メートル。自然のままに鍛えるには最高の環境だと地元では胸を張る。
抑制棚に何万という単位で吊した貝殻の束。翌年の6月頃、それを9メートルほどのワイヤーに差し替える「通し変え」がはじまる。1本のワイヤーに通す貝殻は約40枚。これから筏へと移り、大きく成長するための準備が整う。
海上では季節に応じて筏を移動させたり、夏場は海面付近の高水温を避けるために牡蠣を深く吊り下げたりする。これでフジツボなど害になる生物の付着も防げる。逆に秋になって水温が下がり始めれば、エサになる植物プランクトンが多い海面近くに吊り下げる。
採苗から育成まで、牡蠣養殖に必要な人手は多い。ホタテ貝の処理だけでも気が遠くなるような数量だ。それでも人の働きはサポートにとどまる。そう、すべては島の海が決めている。
右上/潮の干満で牡蠣の幼生を鍛える「抑制棚」 右下/沖の筏から戻った牡蠣船
中/工場裏で水揚げした殻つき牡蠣を、すぐに選別
左上/殻つき牡蠣の洗浄 左下/選別・洗浄後は清浄海水で浄化
獲れたてをすぐに
商品を出荷する倉橋島海産(株)の大きなポイント。それは漁業権を持ち、収穫から冷凍加工までを一元管理できること。筏から獲れたての牡蠣を積んだ船が工場裏の港に到着。ベルトコンベアでそのまま場内へとはこび、選別・洗浄がはじまる。800気圧もの高圧で「殻と貝柱の接着面」のみを分離、簡単に殻とむき身を分けられるPSOP(パスカル・スチーム・オイスター・プラント)を軸に、各工程ごとで熟練工の厳しい目線が入るチェック体制が作業のかなめ。そうして鮮度よくバラ凍結、倉橋島の海からあなたに届くのが「CO・OP 冷凍かき 大粒」だ。
1. 自動で殻を
通称パスカルと呼ばれる加圧式自動牡蠣むき機。高い気圧で「貝柱だけ」を変性させるスグレモノ。
2.カンタンに
パスカルで処理すると、牡蠣殻からカンタンに身がとれる。生産量の7割以上がこの方式。
3.打ち子さんも
こちらは昔ながらの牡蠣打ち作業場。ベテランのみなさんが目にも止まらぬ早技で身を取り出す。
4.早春の傑作
打ちたての牡蠣。その透明感は白磁を想わせる。口にふくむと、ああ、うまい!
5.選別もしっかり
むき身加工後は、選別へ。エア式での異物除去のほか、丹念な目視選別を。
6.清浄海水で
速やかに冷却した清浄海水(100ミリリットル中、8項目の基準値をクリア)を使って洗浄。
7.冷凍の直前にも
冷凍機に入る前にも作業員が目視チェック。この後、マイナス40度でバラ凍結。
8.完成前も入念に
凍結後はグレース処理(氷の皮膜で劣化を防ぐ)などを経て重量選別を。ここでも目視検査と、金属以外の異物も探知する機器でチェックする。