優れた環境の中で
北上山地から続く山々の美しい稜線。壮麗な断崖の光景に息をのむ海岸線。岩手県下閉伊郡(しもへいぐん)田野畑村は、山に海に恵まれた自然をあわせ持つ。アワビやウニなどの豊富な水産資源に加え、緑かがやく山間部では乳牛が草を食(は)む。平地わずか16%程度といわれる山林の村。宮沢賢治の世界を彷彿とさせる森の中に、合鴨を肥育する鴨舎がある。
そこで繁殖・肥育されているのは英国チェリバレー社が改良した北京種の合鴨。彼の地からひなを輸入、種鴨専用の鴨舎で産卵・孵化したものを肥育する。極めて厳重な管理をおこなう種鴨の鴨舎、そして出荷用の鴨舎へ──建物や場内、敷地の隅々までが大変よく整備されている。建築後10年以上を経過した鴨舎のたたずまいはもちろん、何よりも舎内が見事。きれいな床部分(敷料)は青森県から仕入れるモミ殻を毎日3〜4回、新しく敷き詰めて維持。合鴨は水鳥なので水かきがある。その薄く傷つきやすい足を守るための配慮だが、同時に衛生的で驚くほど匂いのない環境を実現した。また、給水をニップルドリンカー(鴨が上を向き、吸水口をつついて水を飲む)としたことでも、新鮮な飲み水と汚れの防止を両立する。
1坪当たり約10羽前後と、ゆったり動ける空間。その中で抗生物質などは一切使用せず、ワクチン投与もない無薬での肥育。マイロ(コウリャン)を中心に大麦などの穀類をバランスよく配合した飼料を与え、「手塩にかけた味」が完成する。
右上/山に抱かれる鴨舎の外観 右下/合鴨は英国チェリバレー社の北京種
中/特別に撮影した種用の鴨舎にて
左上/コウリャンや穀類が豊富な飼料 左下/鍋のシメや年越しそばに、ぜひ
震災にも負けずに
合鴨の解体と肉の整形は、田野畑村の工場でおこなう。ポイントは国が定める食鳥検査員(獣医資格者)が内臓などを1羽ずつ検査すること。年間30万羽以上の鶏や鴨を処理する工場に求められる規定で、国内唯一の配置となっている。
ロース肉、モモ肉をそれぞれ「モール」と呼ばれる形にまとめ、冷凍すれば大船渡市の工場へ。ここではスライスと計量などをおこない、スープとセットして包装・出荷のはこびとなる。東日本大震災では深刻な打撃を受けた大船渡工場。当時、屋上に取り残された従業員や付近住民の方々の姿がニュース映像にも流れていた。現在では設備を一新して操業を続けるが、再開後は放射能測定機を導入、原料段階で毎日検査を実施(月1回は外部機関でも検査)。基準値は国(100ベクレル)よりも厳しい30ベクレルに設定しているが、検出されたことはないとメーカーは語っている。
1. 1羽ごとに
食鳥検査員の立ち会いのもと、羽毛処理などを終えた合鴨から肝類を抜き取る。
2.根気よく
羽毛が残った場合は、毛抜きを使って丁寧に取り除く。根気の必要な作業が続く。
3.すべてが手作業
解体から肉の整形まで、すべてを手作業でおこなう。包丁さばきひとつにもノウハウがある。
4.「モール」づくりへ
ロース、モモ、各々の肉を整え、同種2枚を合わせた「モール」をつくり凍結。大船渡へ。
5.まずはスライス
大船渡工場では、マイナス5度程度に半解凍したモールをスライスして作業がはじまる。
6.よいものだけを
スライスした鴨肉はすぐに検品。形のよいものだけを計量・パック詰めラインへ。
7.やはり手作業で
計量は作業員がひとつひとつを手作業でおこなう。その動作は的確で素早い。
8.真空パックで完成
真空パックを終えれば、うまいと好評のダシと合わせて包材にセットする。