恩納村の海で
「ほら、見えますか?あれが目印なんです」
漁師が指さす彼方───海上には細いポールが見えていた。もずく畑は浅い海の底にある。舟上からどうやってその場所が・・・・?そんな質問に答えてのことだった。
海底には養殖網が数え切れないほど張り巡らされている。もずくの胞子は網目に着床させてあり、ゆらゆら、ゆらりと網を覆うように成長する。一面がもずくの草原となるのは早春から初夏。漁師たちは小舟を繰り出して一斉に海中へ。太いホースを手に、もずくを吸いあげるように収穫する。
村でもずく養殖がはじまったのは1977年。沖縄では初の試みだった。すでにその6年前からパック入り味付もずくを開発していた(株)井ゲタ竹内との協同作業。当時から天然もずくの減少を危惧していた老舗メーカーが、生産から製造までの「安心・安定」を目指してのことだった。
気温の高い沖縄から製造工場(鳥取)への輸送、もずくに混入する珊瑚のカケラや砂粒・・・・養殖をはじめてから起こった問題や課題を聞けば、道のりは決して平坦ではない。ただ、30年以上の歳月を経て、今や恩納村のもずくは多くの人々に支持される商品へと成長している。
「丁寧」が生む安心
工場に搬入するもずくは、沖縄で製缶されている。缶のフタには産地名・製造年月日・ナンバーなどの表記があり、ひと缶ごとの生産履歴がすべてわかる。
メーカーでは食味検査によってもずくをグレード分けするが、そのデータは漁師一人一人のはげみになっている。舌ざわり・歯ざわりが命の繊細な商品。それだけに生産者の意識向上は何よりも重要だ。また、恩納村では漁師が珊瑚を守る取り組みをすすめるが、メーカーが参加協力する姿勢にも産地との丁寧な交流がうかがえる。
製造ラインでは、その清潔さとともに異物などの選別チェックが目を惹いた。綿密な作業はすべて人の目と手によって支えられている。調味液の調合を機械化、衛生管理を充実させることで保存料を不使用としたことを含め、丁寧さが育む食の安心。だからこそ恩納村の美しい海が、より大きな価値をもって見えてくるのかもしれない。