蜜柑から柿の里へ
かつては温州蜜柑の栽培が盛んだった西吉野。しかし、大正3年の冷害で多くが栽培を断念、残った農家も昭和47年の価格大暴落で姿を消したといわれる。そうした辛い時期にあって、人々の希望と共に地域へ根付いた秋色の果実─今ではブランド、生産量ともに全国で屈指の存在─それが、西吉野地域の柿だ。一説には、試験的に植えた柿の木だけが冷害の中でまるまると大きな実を結んだことから、栽培が本格化したともいわれている。
秋の通知表
柿山の手入れは、冬、どの木にも日光が多くあたるよう枝を間引く剪定からはじまる。寒気に耐えての作業になるが、後の出来ばえを左右するたいせつな基本。4月下旬から5月下旬は、花のつぼみの間引きだ。通例、柿の小枝には4個から8個ほどのつぼみが付く。これをひとつだけ残して取り除く。広大な柿の園地に立てば気の遠くなるような作業だと解るけれど、うまさの条件は一枝に一果。養分が均等に行き渡ってこそ、良質な実が育つ。その間も施肥や、木・枝を支えるための養生に努めたりと作業が続き、ようやく秋の収穫へ。その気持ちを生産者はこんなふうに教えてくれた。
「秋は1年の作業の通知表をもらう季節です。丁寧にきめ細かく手を入れるほど、良い成績がいただけます。自然に生きる作物はほんとうに正直で、こちらの熱意の分だけ味が良くなっているのがわかります」
ならコープの県内産直では、むかしからおなじみの西吉野産直組合。そのうまさと甘味を支えているのは、栽培に適した西吉野の気候風土、そして生産者の熱意だった。
「やりがい」の大切さ
西吉野産直組合では、後継者がきちんと育っている。彼等は「会社勤めと違い、仕事は全部自分が管理しなければならない。また自然相手の厳しい条件もある。でも、努力すればするほど答えが出る、やりがいのある仕事」だと感じているそうだ。消費者が生産者に期待するこだわりや熱意を思えば、こうした感覚を生産者が持つことがどれほど大切かはいうまでもない。だからこそ、その土づくりも「毎年各園の土壌検査をおこない、土の状態を把握しています。その土地はどの成分のどんな肥料が不足しているのか、または使い過ぎているのかなど、正確にコントロールしています」と胸を張って語れるのだろう。
毎年、統一した肥培管理をおこない、作業日誌を記帳して実直に取り組む12名の生産者たち。「消費者が口にするものに、少しでも安心を」と願って収穫される柿は、奈良県の基準を大幅に下回る薬剤散布で育った産直商品でもある。