主人の豆
「だだちゃ」は山形・庄内地方の方言で、主人・お父さんの意。今から百年ほど前、とある枝豆をたいへん気にいった名家の当主が、「あの家のだだちゃが作った豆を食べたい」といったのがはじまりだという。
評判となったのは「藤十郎だだちゃ」と呼ばれたものだが、それはもともと「娘茶豆」を選別して生まれたもので、さらにさかのぼると「八里はんどう豆」に行き着くとの説もある。歴史は、江戸時代から続いているのかもしれない。
わがままな旨さ
庄内の人々が枝豆の美味にこだわり、長い歳月をかけて品種改良に努めた「だだちゃ豆」は、さやに豆が2粒だけ入る「2粒さや」の出現率が非常に高い。豆の数が少ない分、旨味が凝縮するという。ふくらんだ豆と豆の間に深いくびれをもつのも特徴。他とはちがう格好をした食味の良い豆を選り分け、少しずつ地域へとひろめることを繰り返した先人たちの努力─庄内の土と、空と、月山を源とする赤川支流・湯尻川の水が、それを在来品種特性として高めた。
「たとえ種豆を譲り受け、他の地域で栽培しても、良くできなかったり味の特長が消されてしまいます。在来種にそなわった、わがままさのある枝豆なのです」と生産者は説明する。
ひと粒かみしめれば、舌にひろがる甘味。よく熟れたトウモロコシを想わせるその後を、豆のコク味が追ってくる。ふだん見かける枝豆にはないこのうまさ、まさに地域個有の「他にはない」ものなのだ。
栽培と選別
だだちゃ豆は発芽率が悪く、育苗に苦心する。成長後も天候に左右されやすく多雨になれば収量があがらない。除草剤不使用を基本としているので、雑草との闘いもある。
そうした中、ならコープとの産直をすすめる生産者たちは、農薬を半分に減らしたり(山形県の基準比)有機質肥料による土づくりで商品を育てる。
無事に収穫となっても、手作業による選別作業では「さやの実入りが悪いもの、1粒さやは機械で一定選別されますが、機械で除かれなかった1粒さやや、形が悪いもの、黄色くなったもの、全体的に黒いもの、品種の特性(くびれ)を備えていないものなどは、すべて取り除くようにしています」と余念がない。
丹精込めるとよく言うけれど、この商品に感じたのは「生産者の誇りと愛着」だった気が、今はしている。