治道の季節、はじまる
大和郡山市の東、天理市と境を接する地域・治道(はるみち)。その場所を拠点に、9名の生産者たちが出荷する治道トマト。取引開始は1981年。以来、今では約7万本のトマトから「樹上で完熟した」赤いみのりが毎年届く。期間は4月の終わりから7月頃まで。約3ヵ月の供給になる。
かつて─30年ほど前は、今ほど冷蔵流通が発達していなかったこともあって─トマトの多くが青く硬いうちに収穫されていた。卸業者、小売店へと流通する間に色づき、消費者の手元へ届く頃に赤くなる。
「もっと美味しいトマト、つくれませんか?」
「ほんとうは実が赤くなってから収穫すれば、美味しいんですよ」
それは農業講習会でのことだった。ならコープからの質問に、治道の生産者が樹上完熟の旨さを伝えた。地元で穫れたものを地元で消費するなら・・・・ほどなくして、直接取引を始めようとの話がまとまった。
しかし。
自然に熟すトマトは気温の高い日が続けば一気に赤くなり、低ければなかなか熟さない。出荷量がその時々の天候・気温に左右される。やわらかくて傷つきやすい実は、長雨になれば割れてしまう性質をあわせもつ。大きさを揃えることも難しい。当初、治道トマトは一般市場の斜め上をゆく独自の存在と映ったことだろう。
ならコープが全量取引(つくったトマトをすべて引き受ける)を約束したこと、多数の組合員の理解に支えられて治道トマトの歴史が続いている。
見栄えや量目の増減(急な変更)などと引き替えに手に入るもの─とびきりの鮮度、自然の力を感じる味わい、そして「安心を担保するためには沢山の労力とコストが掛かっていることをわかって頂きたい」と生産者がまっすぐに語る栽培へのこだわり─消費者が求める多くの要素を先取りしてきた治道トマトが、今、市場のまんなかで輝いている。
素敵なジュース
もともとジュースづくりは、トマトの過剰生産の対応策として2008年から本格稼働した。でも、見逃せないポイントがふたつある。まず、通常よりもさらに2日ほど追熟させた、もうほんとうに真っ赤っかなトマトを使うこと。ふたつめは、工場ではそれを洗って、搾って、加熱殺菌するだけで完成すること。
説明のしようがないほどのストレートぶり。手にした人だけが知る幸せが、そのひと瓶に詰まっている。