輪作と地力の豆づくり
千歳空港から道央自動車道を北上、留萌(るもい)方面へ─旭川市の北西に位置する沼田町。10年ほど前、鉄道員を描いた連続テレビ小説の舞台になった小さな町。付近の山道をたどれば湖がひとつ。晴天の下、北欧の青い瞳を想わせるその湖底には、かつて栄えた炭鉱の町が眠る。
山々を背に南へ大きく開けた平野。季節ごとに米・麦・そばが実る大地。明治の頃から米づくりに取り組み、水を引き入れ、土をはこび、地力をつけてきた畑地。冬を告げる風に人々が襟を立てはじめる10月、大豆の収穫が最盛期をむかえる。肥料を与えすぎず、うまく輪作(おなじ土地で異なった作物を順番に育てることで、病気をふせぐ)した成果は、この秋も大豆のさやを大きくふくらませた。
彼方の山々がほんのり雪に煙りはじめるこの季節、天候は急変しやすく安定しない。収穫前も、収穫の日も雨は禁物。近づく冬の足音にせかされるように、生産者は大豆の茎を手に取り、時にその一粒を噛みしめて乾き具合をたしかめる。収穫後に投入する乾燥機の乾燥度─いつのまにか、指や舌がその頃合いを憶えている。
そよぐ風に大豆が乾き、空模様が落ち着けば一斉に畑へ。コンバインの中には籾殻が仕込んであり、取り込んだ大豆をスパイラル状にくるんでゆく。収穫とともに、大豆の汚れをやさしく取り去るために。
伝統の味をアレンジ
たしかな生産管理(栽培履歴・生産管理台帳・種子管理や農薬管理など)のもと、出荷単位ごとでの生産者も明らかな原料大豆。受け入れた工場では、まず小石などの異物、変色・割れのある大豆を除去する。水洗・湿式研磨を経て磨き上げたものを水に浸せば、大豆は2倍ほども大きくなり、ふだん見慣れた形になる。
そうして蒸煮室(じょうしゃしつ)にならぶ巨大な圧力釜へ。低圧でじっくり、指で押しつぶせるやわらかさになれば納豆菌を噴射。まだ湯気のたつものを容器に充填する。この段階で、大豆は未だ納豆にはなっていない。うまさの秘訣は、この後の作業─発酵室にある。
水戸納豆の伝統でもある長時間低温熟成。手間のかかる温度管理の下、ゆったりほどよく発酵させることで昔ながらの旨味が増す。ただ、鰹や昆布ダシの良さを生かしたタレの味と共に、関西人が好む風味への巧みなアレンジに違いがある。
容器を手のひらにのせて、箸で100回。タレを入れて軽くまぜあわせ、ふんわり、炊きたてごはんの上にのせてみよう。たっぷり胡麻をふりかけて頬張れば・・・・ああ、もう何もいらない。