南国の町で
きゅうりといえば夏野菜の代表種。それが宮崎県では、まるで旬が逆になったと錯覚しそうになる。その年の9月からはじまり、11月の収穫開始から翌年6月に終わりを告げる栽培暦。冬場はまさに実りの最盛期だ。
宮崎市内から車で約40分─あたりを照葉樹林に囲まれた農業の町・綾町(あやちょう)─南国の太陽がたっぷり降り注ぐ山里のあちらこちらでも、この冬「綾町のきゅうり」が瑞々しく実る。
名水と健やかな土
綾町では、くみあげた井戸水できゅうりが育つ。周辺には「綾川湧水群」と呼ばれる名水百選に選ばれた地域があり、井戸水は伏流水にあたる。「きゅうりの主成分は水。だからこそ、名水でつくっていることをアピールしたいのです」と微笑むJA担当職員氏。さらに「綾町は地域循環型農業の町とも言えるのです」と続けた。ここには、たしかに多彩な農業関連品がある。柑橘類や米、和牛(綾牛)、豚(照葉豚)、焼酎やワインの醸造も地域の主要な産業となっている。
きゅうり栽培では、和牛飼育の敷料(牛舎の床材/バーク材)が有機質肥料として活躍していた。「環境保全型畜産確立対策事業」の一環として、専用施設でよく熟したものだ。この豊富な堆肥のおかげで土がとても健やかになる。有機質肥料は実りに速効性を持つわけではないけれど、「じわり、と全体に効く」「しっかり育てる」ためには欠かせない。
一方で、きゅうりも植物である以上、日々の成長は機械のように一律ではない。生産者が「草勢(そうせい)」と呼ぶとおり、勢いのよい・わるいが出る。もちろん安定した出荷のためには「安定した草勢」が必須で、そうなると追肥(液肥)が頼りになる。有機液肥なども使うものの、求められるのは速効性。チッソ液肥での速やかな草勢回復、リン酸・カリ液肥による実りの安定など、化学肥料によるコントロールは重要なテクニックだ。興味深かったのは、そうした液体化学肥料の中に、地元の焼酎醸造所で生まれる「蒸留粕」を利用したモノがあること。この酒粕?は、堆肥化して元肥にも使われている。ほかにも綾町では、「綾有研ぼかし」という名の限定販売された肥料(牛堆肥や油かす、米ぬかをベースに納豆菌・乳酸菌・イースト菌を配合)があって、工夫して使う生産者もいる。
きゅうりはとてもデリケートな野菜で、日々の観察と対応が欠かせない。そのくせ花がついている段階で、すぐ上の枝を見れば「その後の実り具合の見当がつく」という頑固さものぞかせる。それにしても・・・・カボチャに接ぎ木しているとは知らなかったなァ。
■名水百選とは・・・・
昭和60年3月、全国各地の湧水や河川の中から100ヵ所を選出。その判定条件は、(1)水質・水量、周辺環境(景観)、親水性の観点からみて保全状況が良好なこと (2)地域住民等による保全活動があること、を必須条件に、規模や故事来歴・希少性・特異性・著名度などを勘案している。
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