干して増す旨味
生や焼きものはさておき、干して味のよくなるものがある。中華街などで目にする干しアワビは、典型だろう。うかつに買えない値段だが、コイツでつくる中華スープは目がウルむ味だ。魚も然り。明石の「魚の棚」なんぞをのぞくと、タイやカレイなどの一夜干しが実にうまそうだ。タコやマグロには目もくれず持ち帰った土曜の夕暮れどき、七輪を持ち出してパタパタやってると「おや、いい匂いですなあ!」なんて近所の飲み助が声をかけてくる。「どうです、ちょっとひと口」「いやいや、悪いですよ」お約束のやりとりもつかの間、すぐに「うまいなあ」「うまいねえ」と缶ビール片手に乾杯だ。
ところで。
最近こうした場面でとても重宝している商品がある。その名も『津軽海峡するめいか一夜干し』。ストレートだが、実にいいネーミング。包材に書かれた文字も雰囲気バツグンだ。これだけで、気分は北の海辺の赤ちょうちん。焙ったアツアツを口にほうりこめば、ぶつり、と小気味よい歯ごたえ。身はふうわりとやわらかく、じわり、と甘味がひろがってくる。
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脂のりがよい?
青森県むつ市大字関根字川代・・・・
高速道路をひた走ること13時間。たどり着いた八戸市からさらに一般道を3時間。あと4、50分も走れば下北半島のてっぺん、大間崎まで行けるだろう。製造現場は途方もない北の果てにあった。
商品はネーミングにもあるとおり、津軽海峡で獲れた鮮度の高いするめいかを原料にする。解凍直後なら刺身で食べられるほどだ。それを実に手際よく処理してゆく。アッという間にワタを抜き、ツルツルと水路をすべり、塩水に5分ほど浸して網(現場ではスダレと呼ぶ)にならべる。その後に乾燥庫で風乾するのだが、ここで意外なことを聞いた。
「一夜干しといいますが、塩水に漬け込んでそのまま冷凍するだけのものもたくさんあるのですよ」
いかは乾燥すると一割くらい軽くなる。歩留まりが悪くなる上に余分な製造コストがかさんでしまう・・・・それが理由だ。
もうひとつ。
原料のいかは、下北半島の山々が色づく秋に水揚げしたものを使う。この時期は大型で良形なこともあるが、脂がのっているというのだ。
「ええ。いかに脂がのるなんて、ちょっと不思議でしょう?でもねえ、干してポタポタ落ちてくる雫をさわってみると、海水じゃないんですねえ。地元では脂がのったというんです。だからこの時期のものは刺身にしないほど、味が濃いです」
このいかを少し乾燥すると、みるみる旨味がでてくる。およそ1.5〜2%の絶妙な塩加減で、その身の甘さと風味も堪能できる仕上がりだ。
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アレンジも秀逸
商品は、そのまま焙るだけで充分に美味しい。ただ、素材の良さはちょっとしたアレンジで思わぬ味を呼ぶ。
長ねぎのみじん切りと細く切った一夜干しを用意。フライパンに軽く油を敷いて味噌で炒めてみよう。好みで鷹の爪を加えてもいい。素朴だが、あきのこない味だ。
鍋に油をひいて細切りした一夜干しを炒める。ゴボウやニンジン、白菜、たっぷりのきのこ類を入れて水を入れず煮込んでみよう。沸騰すれば糸こんにゃくを入れ、うまみ味だしなどを加える。最後にカレー粉を入れてすばやくかき混ぜると、カレー風味いかすき焼きの完成。この季節、とても気の利いた小鉢になることうけあいだ。
特におすすめのレシピは、写真入りで誌面に掲載している。ひと味ちがう『津軽海峡するめいか一夜干し』、あなたならどんな風に楽しみますか?
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