2月13日(水)奈良ロイヤルホテルで開催した「産直交流会2019」では、『産地の本音、組合員の本音』をテーマに、組合員と産直生産者が交流しました。3生産者から報告された「産地の本音」をダイジェストで紹介します。
「産直交流会2019」報告Ⅰ~「産直協議会・産直交流会2019」を開催しました~はこちら


安心安全な治道トマトを安定して届けるために

JAならけん治道産直出荷グループ グループ長 奥 修氏

 

「産直交流会2019」報告Ⅱ ~【特集】3生産者が語る「産地の本音」~

●治道トマトの誕生「美味しいトマトを組合員に」
 奈良県北部大和郡山市が産地の治道トマトは、1980年、奈良市民生協(当時)故増田専務理事からの「美味しいトマトが作れないか」という相談から始まりました。美味しいトマトとは、赤くなって収穫したものですが、当時は、美味しくなる前に収穫された赤くないトマトが市場に出荷されていました。赤くなると軟らかくなり日持ちしないので出荷できなかったのです。そこで始まったのが、「美味しいトマトを組合員に」というトマト作りを知らない生協と小売店の流通を知らない農家との無謀ともいえる取引でした。繰り返される試行錯誤に、一番大きな力になったのは組合員さんの協力です。収穫できないときは少しの量でも我慢、取れ過ぎた時は余計に購入いただきました。1988年頃になると、組合員さんの増加にトマト不足が生じ、生産者は3人から8人に増え、現在は9人(30代、40代が主力)で、7万本を植え付け、220トンを収穫するまでになりました。最近では、注文以上に赤くなりすぎたトマトや極端に変形したトマトを使ったトマトジュースを、年間約25,000本(トマト20t分)を製造して、販売しています。

●美味しいトマトが生ごみに…
 地域の高齢化で、農家の方が入院や施設に入所されると、農地が荒廃し、用水路の管理や整備ができず、集中豪雨や突風による水害や風害が発生します。また、最近の異常気象は、過去の経験が活かされません。特に気温の変化が大きく、急に暑くなって注文以上にトマトが取れ過ぎた時が大変です。小売価格が下がると注文が減り、治道トマトの行き場はなくなります。旬の美味しいトマトを生ごみにするのは本当に辛いです。

●産地からのお願い
 安心安全のトマトを安定してお届けするために、安定したご利用をお願いします。私たちは、10ヵ月前に生産計画を決定して植え付けをしています。今年も200トンを計画通りに進めています。発足当時から組合員の理解と利用があるから40年間続けてこられました。生産者カードで厳しい声も返してください。よりよいトマトを作るのに大きな励みになります。また、治道トマトの共同ハウスは、みなさんに見てもらえるようにオープンにしています。ぜひ気軽に遊びに来てください。これからも美味しいトマト、安心安全・安定供給・安定利用で、市場に振り回されずに作れるトマトをまじめに作っていきます。


生協産直には社会の課題に取り組める可能性があります

農事組合法人多古町旬の味産直センター 専務理事 鎌形 芳文氏
 

「産直交流会2019」報告Ⅱ ~【特集】3生産者が語る「産地の本音」~

●本当に産地が望むことは
 成田空港に近い千葉県北東部、関東ローム層の北総台地から温暖な沿岸部まで広大な平地で、適地適作で栽培したさつまいも・人参・きゅうり・ミニトマトなど50品目以上を取り扱っています。1987年に中小の生産者で市場出荷からスタートしましたが、自分たちの商品の本当の美味しさを伝えたいとの思いがあって、生協産直を始めました。今年度、経営理念を「私たちは、農業を通じて、人・環境・地域社会を元気にします」に作り直して、あらためて私たちがめざすことを決めました。
 産地が本当に望むことは、持続的に地方で農業生産ができること。農業は人がいないとできません。高齢化による離農には若い人が規模を拡大して取り組んでいますが、それだけでは持続可能な農業はできません。子どもの学校など地域が安心して暮らせる環境であり、地域社会が整わないとできないことから、これを経営理念に掲げました。

●生協産直の今と産地の募る思い
 生協産直は、安心して食べられる農産品がほしいという組合員の思いと、安定した価格で農薬や化学肥料に頼らない農業をしたいという生産者の思いがつながることで、それぞれの課題を解決してきた取り組みです。産直は、双方の課題を解決するプラットフォーム(一つの箱)と考えます。近年、生協は組合員の要望に応えるため多種多様な調達ルートを確立し、産地も商品が余るリスクを回避するために全国の生協と提携して取引しています。互いに有利なところを利用する関係になり、産直はブランド化されてきています。産地では、天候不順による市場相場の乱高下、厳しい数量調整のうえ取れなくても価格は同じです。生協が大きくなって分業化してきているから。生産者の思いが届かないような仕組みになってきていることが、合理化された生協産直の課題になってきていると考えます。

●生協産直の可能性
 生協産直は社会のいろんな課題に取り組める可能性があります。今後10年の間で農業の形も、組合員も、生協も変わります。人口減少・超高齢化を契機とした社会の変容に対応するには、生協産直が、持続可能な食と農畜水産業・地域、食の安全・安心・安定調達を課題にすることが大切だと思います。産地として、この先10年でやりたいことを3つ上げます。
①安定的に届ける食糧生産ができる産地でありたい。そのためには、人材の確保、就農者、実習生やボランティアの受け入れ。農家応援隊による高齢者の農作業のサポート。
②癒し・学びの提供。都会に住む人の故郷になれるような田舎になりたい。
③自然エネルギーの生産と提供。千葉は原発事故の被害があった地域です。原発に頼らないエネルギーをと考え、消費者が参加する「市民発電わたしの電気」をつくって、エネルギーを地域で循環させています。


地域づくり、担い手づくり~持続可能な地域農業へ~

紀ノ川農業協同組合 組合長理事 宇田 篤弘氏
 

「産直交流会2019」報告Ⅱ ~【特集】3生産者が語る「産地の本音」~

●「5年後、10年後はない」の危機感
 ならコープとは43年前から産直を始めましたが、これから生産をどう維持していくかが最大の課題です。あと5年、10年はないという非常に危機感を持っています。紀ノ川農協は組合員927名で和歌山県全域を対象とした販売専門農協です。1976年にスタートして、生産者は圧倒的に60歳以上で「80歳までがんばろう」が合言葉になっていますが、一斉リタイアとなるとどうなるでしょう?担い手の高齢化・減少で、集落の共同作業が衰退し、農業生産力が落ちます。洪水を防ぐ溜め池の機能など農業の多面的機能も後退します。
 そこで、組合の理念を見直し、「私たちは、地域の協同を大切にして、自然と共生し、平和で豊かな“持続可能な社会”と農家の経営安定、暮らしの向上をめざします」とし、組合員行動指針に「地域の人からも信頼される農家になろう」を掲げました。これは非常に大事なことで、労働力が足らないからだけではない、幸せになるために地域に来てもらう、ああいう農家になりたいと思われるには、地域の中で信頼されることが大事です。

●我々の世界を変革するSDGsと国連の「家族農業の10年間」
 TPPが発効され、EUとはEPA、米とはFTAと、日本は国際間での経済連携協定をすすめていますが、これによって輸入農産物が入ってきます。生産者は政府から「日本の農業はいらないんだ、私たちはいらないんだ」と言われているようで、高齢の農家が崖っぷちで踏ん張っているのを後ろから突き落とされるように思います。
 世界では、今、持続可能な開発目標であるSDGsに取り組んでいます。私たちの産直はSDGsの基本的な取り組みと一緒だと思います。もうひとつ大きな動きがあります。国連が2019年~2028年を「家族農業の10年間」とすることを決定しました。国連は世界の食料自給率を上げるのは大規模農業でとしていましたが、大きな多国籍企業が農地を集約したものの、食料自給率は上がりませんでした。国連はその反省のもと、食料自給率を上げるためには小規模な家族農業を大事にしていくことに至りました。

●地域の発展なしに紀ノ川農協の発展はない
 家族農業を推進していくには、やはり集落の共同作業ができるような地域を元気にしていくことが大事だと思います。そこで、紀ノ川農協では集落が元気になっていくことを考え、和歌山県下の4つの地域が協議会を立ち上げて持続可能な地域づくりすることを応援する取り組みを始めました。生協組合員には、自然体験ツアーや収穫ボランティア、耕作放棄地の再生プロジェクトに参加していただいて、農家の方に寄り添い「忘れてないよ」と言ってもらうのが一番元気が出ます。農協では新規就農者のトレーニングファームをつくり、婚活イベントも生協のチラシで呼びかけました。
 最後に、みなさんに利用し続けていただければ、産地は産地で持続できる地域をつくろうとがんばります。利用することを「投資」と考えていただき、お金が循環することで地域づくりができ、若い人が農業をやっていこうという地域に育っていきます。